【高校生物】呼吸③電子伝達系
目次
電子伝達系の化学反応式
呼吸②クエン酸回路の最後にご紹介した、電子伝達系の化学反応式です。
この式の中に、「電子伝達系」のやっていることが見えますね。
これを「酸化還元反応」の目で見てみましょう。
まさに「化学基礎」の範囲です。
NADHはNAD+になります。
これは「Hが外れた」状態なので「NADHは酸化されてNAD+になった」
と表現することができますね?
これは「NADHは電子が奪われてNAD+になった」とも表現できます。
(そしてこれはFADH2とFADも同様の関係です)
O2はH2Oになります。
これは「Hが付いた」状態なので「O2は還元されてH2Oになった」
と表現することができますね?
これは「O2は電子が与えられてH2Oになった」とも表現できます。
すなわち、これは 電子のやりとり なのです。
だから 電子伝達系 なのですよ。
電子の移動によって起こること(1)
呼吸全体のなかで、反応②のクエン酸回路は
ミトコンドリアのマトリックスにて、
反応③の電子伝達系はミトコンドリアの内膜にて行われます。
ちなみにこれはある意味で当たり前の話でもあります。
電子を伝達させるためには伝達するレールが必要であり、
「膜」がそのレールを担うわけです。
(これは光合成も同じです)
さて、まず電子伝達系の反応では、
NADHとFADH2が電子とH+(これを合わせるとHになります)を
放出し、NAD+とFADに戻ります。
電子は内膜上を伝達していき、H+はマトリックス内に漂います。
内膜上には電子が伝達しやすいように、
膜タンパク質が配置されています。
この膜タンパク質には電子の授受が起きやすいように、
すなわち「酸化還元反応が起きやすいように」
「鉄」が含まれていたりします。
電子の移動によって起こること(2)
さて、「電子が移動」すると「エネルギー」が発生します。
これが化学で学ぶ「電池」の基本原理です。
同様に、内膜を伝達する電子によって生まれたエネルギーで、
マトリックスにあったH+を外膜と内膜の間に能動輸送します。
輸送のたびにH+は濃くなっていきますが、
エネルギーを用いた能動輸送なので、
濃い方にも移動が可能である、ということですね。
電子の移動によって起こること(3)
さて、膜間腔のH+濃度が高まっていき、
マトリックスと膜間腔との間のH+の濃度勾配が大きくなっていきます。
すると内膜にはぽっかりと穴をあけている膜タンパク質が存在し、
H+はこの穴を受動的に移動します。
すなわち濃い方から薄い方へ
膜間腔からマトリックスへ、穴を通って移動していきます。
この穴のあいた膜タンパク質こそが、
ATP合成酵素
であり、H+が通るとモーターのように回転しATPを生み出します。
結果的に、1分子のグルコースから34分子のATPが生み出されます。
解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子のATPですから、
呼吸全体では38ATPが生み出されます。
さて、内膜を移動していた電子は最終的には酸素が受け取ってくれます。
マトリックス内に存在する酸素とH+と電子が結合し、水が生まれます。
このように最後に酸素が受け取ってくれるから電子は伝達できるのです。
当然、酸素が存在しないと電子伝達系は停止し、
NAD+もFADも再生産されないため、
解糖系もクエン酸回路も停止します。
以上が電子伝達系の反応です。
3つの式の合体
では、解糖系・クエン酸回路・電子伝達系の反応式を
全て足し合わせてみましょう。
左辺と右辺に同じものがある場合は、お互いに消し合いますね。
その要領で消していくと上図のようになります。
NAD+などは解糖系、クエン酸回路、電子伝達系に移動しているので
消しあって良いのですが、水だけはちょっと異なります。
左辺の水はクエン酸回路で使用されるものであり
右辺の水は電子伝達系で生成されるものです。
両方とも全くの無関係であるため、ここは消し合わない方が
反応を正しく表現しています。
これが、呼吸の反応式において、
左辺にも右辺にも水がある理由なのです。